国連加盟国189カ国で最後までピルを承認しなかった日本

日本でのピルの検討は、案外早く、1955年で国際会議にてピルによる避妊法が発表された直後から始まっていた。ピルの成分を子宮内膜症の治療に使うことはすぐに認可されたのだが、経口避妊薬としての使用は副作用が明らかになっていないとの反対にあった。副作用が案ずるほどのものではないことを日本産婦人科学会が新医薬品特別部会で証明しようとしても、電話や電報で突然の中止にあった。当時の首相の妻の一声が中止の原因だとの噂が流れた*1。避妊薬としてのピルの認可は、ここでいったん閉ざされる。

1964年になり、日本シエーリング社が月経困難症の治療薬「アノブラール」に「排卵抑制剤」と付帯説明をつけることで、やっとピルを避妊用途に使うことができるようになる。避妊薬、でなく排卵抑制剤、であればよいようだ。しかし、71年になると、厚生省が「安全性に疑問があるから」という理由で、「排卵抑制」という言葉を使うのを禁止した。しかし、医師の判断で避妊に使うのはOKということになった。

アノブラールは、カテゴリとしては中・高容量のピルに属する。この頃には、世界では中・高容量のピルよりも副作用の少ない低容量ピルがメインに使われるようになっていた。しかし、日本では低容量ピルは認可されておらず、使うことができなかった。これが本当に女性に対する副作用を気遣った処置であるといえるのか、疑わしい。

ちなみに、「ピルは副作用が強い」というイメージは、中容量・高容量ピルに由来するものである。低容量ピルは、体質によっては飲みはじめに吐き気がでる人もいるものの、むしろ「月経痛が楽になった」「経血が少なくなった」「月経の前の体調や気分の変動が軽くなった」とピルによって体が楽になったことを訴える人の方が多い*2

日本でようやく低容量ピルの臨床試験がはじまってから承認に至るまでには九年の審査期間を経ている。臨床試験は問題なく終了したが、エイズ蔓延を招きかねないとの懸念の元に審議が中断された*3臨床試験と承認までの間、総計三年間厚生労働省を勤めた小泉純一郎は、雑誌「Bart」(集英社)1997年3月24日号に次のように書いている。

「薬というのは本来、体内の異常な部分を正常にするため、服用するものですよね。ところがピルは、女性の生理機能を、薬によって狂わせるわけで、いわば正常な状態を異常にして効能を発揮するんです。 副作用が出ないほうが不思議という感じがしてなりません。仮に認められたとしても、この点をよく考えて使ってもらうよう、指導しなければならないでしょう。 もうひとつ怖いのはエイズの蔓延です。コンドームというのは、避妊だけでなく、エイズの予防に役立っているのはご承知でしょう。ピルの解禁により、コンドームの使用が減るようだと、エイズ対策に支障がでる危険を含んでいるんです。」

しかし、人類の長い歴史を考えると、現代の女性は栄養に恵まれているため月経が早く始まり、その上少子化が進んでいるので、月経の回数が多い。多くの子どもが死に避妊方法もなかったゆえ多産*4で、月経が始まるのも遅かった昔とは違い、子宮内膜症や子宮体がんなどの月経数が多いことによるトラブルがどうしても多くなるのだ。逆説的であるが、現代女性はピルで妊娠に近い状態を人工的に作り出すことで、むしろ昔の自然に近い状態に近づけるのである。エイズについて、ピルとの関連にイビデンスがないことは前述の通り。

日本でピルの承認が足踏みする中、1998年3月にアメリカでバイアグラが承認され、360万人の処方例のうち123人の死亡例が確認された。バイアグラは1998年7月で日本でも申請され、なんと12月にスピード承認される。同7月に友人からもらったバイアグラを服用時の死亡例が日本でも出ているのに関わらずだ。厚生省は因果関係が明らかでないとしているが、ニトログリセリン貼布剤の使用が原因であった可能性は高い。 普通、承認前に死亡例が出たなら、もっと副作用の確認や適用範囲の確認に慎重になるものである。性機能以外は健康な男性に処方するものであれば、より安全を期するのは当然だろう。それなのに、明らかに病気の症状を改善し、特に大きな副作用が見あたらない薬よりもスピーディな承認がされたのは不思議である。

バイアグラのスピード承認の理由は、インターネット上の個人業者の横行が問題だったとされているが、個人業者からの購入を防ぐために、十分に検討されないまま薬を承認するというのは明らかに悪手だ。ほかの薬では、こんな理由でスピード承認はしていない*5

そして、バイアグラに後押しされたのか、国連加盟国の中で唯一日本だけで認められていなかったピル*6が、やっと1999年に承認された。アメリカに遅れること、40年。

本記事のピル承認の経緯は、「ピル」(集英社新書、北村邦夫、2001年)を参考にしました。

ピル (集英社新書)

ピル (集英社新書)

*1:公式の説明は「副作用を懸念して」とのことである。

*2:薬を飲むことで、主に狙っている作用とは別のメリットがあることを「副効用」と呼ぶ。ピルの場合、副作用よりも副効用が明らかに多く、副効用を狙ってピルを飲む人も多い。

*3:ピルがエイズ蔓延の原因になっているという科学的根拠は存在していない。個人的な感覚では、日本ではピルの情報はあまり出回っていないため、ピルを選ぶような人は性感染症に対する意識も高いので、むしろ逆相関があるのではという気もしている。

*4:妊娠時は月経が止まるし、母乳を与えればその間月経が止まる。また、出産自体に子宮内膜を洗い流す作用もあるので、出産することで月経関連のトラブルのリスクは大幅に減らせる

*5:アメリカは何でもスピード承認するので、バイアグラだけの問題じゃない。逆に、日本は承認が遅れることで有名な国である。

*6:日本の後進国ぶりにはあきれる

とても傷ついたとき

不妊治療の経験者に養子縁組の可能性を示唆したらひどく非難された件。

わたし自身が非難されている、というよりも、つらいんだと悲鳴をあげているように見えた。

いままでみた風景のうちで印象が似ているのは、子どもの障害の告知である。どう告知したところで、告知の瞬間、医師は親に憎まれる。障害を認めたくないがゆえに、子どもにとって必要な治療を拒む親や、最良の治療を求めてかえって親子ともに疲れはてるケースも多い。我が子に障害を背負わせた負い目や、現在の医学の限界に対する苛立ちを、親は医師に転嫁する。親の心を受け止め、解きほぐし、光の差す方向に目をむけさせるのも、医師の役目である。*1

今回の件も、おそらくは痛みが強いあまり発した言葉だろうと思う。だから、わたし自身が無神経だと責められるのには腹はたたない*2。普段のこの方を知らないので判断しづらいけれど、妊娠・出産の時期は女性の人生で特にうつ病に罹患しやすい時期でもあり、この方もうつ病になっている可能性もあると思う*3

不妊治療には、いろいろと辛い要素があること、ある程度はわたしも知っている。検査が多いこと*4、ホルモン治療で精神的に不安定になること*5、着床しなかったり流産してしまったりで出産に至らず、高度治療を用いた場合は金銭的負担も大きいこと。パートナーとの関係性によっては、苦しみも増すだろうし、せっかくの排卵日を生かせなくて苛立つこともあるだろう。

この方が荒れることも、仕方がないのだと思う。ほかの人に向けたカサカサした言葉は、自分にも返ってこないだろうか?周りの人が腫れ物にさわるような扱いをしたところで、この方は癒されるんだろうか?

精神的問題を抱えた子どもを治療する方法として、さまざまなおもちゃのある空間でセラピストと一緒に遊ぶ、プレイセラピーというものがある。言語能力の低い子どもにとっては遊ぶことがしゃべることに相当する。遊びを通して自分の問題を掘り下げ、フラストレーションを解決する。

プレイセラピーには守るべきルールがあり、それが単なる大人との遊びとは違う所以だ。ルールの一つに、セラピストは子どもがおもちゃを壊す、セラピストに過度な暴力を加えるなどしようとしたら、押しとどめなければならないというのがある。子どもに破壊的な行動をさせると、子どもが罪悪感をもってしまうからだ。

腫れ物を触るような扱いをし、過剰な反応をしたときもただ同情し、その原因をもたらした人間を責める、そういう扱いが果たしてご本人にとってよいのだろうか。世界を実際よりも悪意に満ちていると感じる、その受け取り方をより強化してしまうことにならないだろうか。

痛みは痛みとして共感し、でも受け止め方にゆがみがあることを指摘したほうが、いいとわたしは思うんだけどね。

*1:しかし、現実には医師の圧倒的な人手不足で、患者に心を配る余裕がないことが多い。また医師側の素質も大きく、口下手な人も、どうしても気が回らない人もいる。一般人と同じだ。もともと、病気や障害というのはきわめてプライベートな事柄であり、感情的な衝突が起きやすい。医師の言葉は悪い方に深読みせず、知りたいこと、してもらいたいことがあったら自分からいう、これが医師とつきあう上でストレスの少ない方法だと思う。

*2:むしろ当惑した。

*3:その場合は、周囲のサポートだけでは回復しづらいと思う。精神科を受診し投薬治療を受けるべきである。

*4:わたしもある持病を持っているので検査は不妊治療の人と変わらないぐらいの数は受けている。わたしは検査大好き人間ではあるが、自分について何らかの診断を下されるというのは、結構ショッキングなものであると思う。

*5:わたし自身PMSがかなり強い人間なので、辛いのではとは思う

育児を楽にするための母乳の正しい知識

姉の育児が楽になればと、母乳と粉ミルクについて、いろいろ調べてみた。育児の話となると、親御さんがたの熱意の結果だと思うけれど、科学的に根拠がない(むしろマイナスである)手間を推奨されることも多い。

母乳は保存につよい

母乳は常温(25度以下)で8時間、冷蔵で8日間、冷凍で21~28日間保存できます。冷凍では一部の白血球が減少しますが、基本的には多くの有効成分は保ったまま保存できます。

卒乳は急ぐ必要がない

世界各国の卒乳年齢の平均は4.2歳です。日本では1歳過ぎの授乳にデメリットがあるという説が流れていますが、根拠がないことがわかってきています。母乳単体では虫歯になりませんが、砂糖が口腔内に残ったまま母乳を飲むと虫歯の形成を促進することがあるので、食べた後は歯をきちんと磨いてから母乳に移りましょう。母乳があっても、離乳食が進まなくなるということはありません。

高脂肪食は乳管の詰まりと関係ないことが多い

日本では、授乳中の母親は高脂肪食をとらないように指導されるが、実のところ脂肪摂取と乳管の詰まりについて研究した論文はほとんどなく、欧米ではそのような指導がなくともほとんどの母親は授乳は問題なくできているとのこと。ただし、繰り返し詰まる場合には、脂肪は不飽和脂肪酸に限定し、レシチンをとるようにアメリカの専門家が推奨しているらしい。

乳首の殺菌は必要ない

乳頭の殺菌を行わずに授乳すれば、親から赤ちゃんに常在菌を移すことができますので、むしろ殺菌しないほうがよいといえます。

哺乳瓶の殺菌は割と楽にできる

スポンジで食用洗剤を使用し洗うだけでも、90度以上のお湯に5分つけるだけでも、哺乳瓶の殺菌は十分にできるようです。

陥没乳頭や扁平乳頭でも母乳育児は可能

乳頭の形そのもので母乳育児ができなくなることはなく、むしろ育児支援者がとった言動で、母親にできないという先入観を与えてしまうことが問題のようです。ただ、おっぱいがパンパンに張っていると、乳児がうまく吸い付けないことがあり、陥没乳頭や扁平乳頭だとさらに吸いにくくなってしまうようです。頻繁に授乳したり、授乳の前に搾乳しておいたり、しっかりと母親の胸に垂直に1~3分間指を押してはなすことで乳輪がやわらかくなるとのことです。

乳汁分泌の促進方法

乳汁の分泌は 1. 乳腺から母乳を出し切り空にすること 2. 赤ちゃんが乳頭に吸い付くこと で促進されます。授乳後に搾乳し乳汁を出しきったり、人工乳を使う場合はナーシングサプリメンターを使い赤ちゃんが乳首を吸う機会を増やすことが重要。

赤ちゃん主体の授乳方法

Laid-back breastfeeding という、自分が寝そべって赤ちゃんが乳をさぐるに任せる授乳方法もあるそうで。

母乳育児はアレルギー発症予防に効果がある

母乳育児は赤ちゃんの未熟な免疫能を補ったり、赤ちゃんの免疫系の発達を促したり、腸内環境を安定させたり、多量の牛乳蛋白への暴露を防ぐため、アレルギー発症を抑制します。母親がとった食事からは微量の蛋白質が母乳に混入しますが、微量であるため、むしろアレルギーの発症の抑制に寄与します。

母乳育児をやめなければいけない薬はほとんどない

薬服用時に母乳育児ができるかどうかと医者にきいた場合、念のため母乳はやめろという意見が返ってくることが多いと思いますが、医者が正しい知識を持っているとは限りません。薬の添付文書も、責任を逃れるため本当に無理なのかどうか検討していることは少ないものです。薬剤師さんやお医者さんに指示をあおぐときは、授乳中の薬の影響 | 妊娠と薬情報センターのリストをお持ちになるとよいでしょう。

一時的に母乳を休止するときでも、母乳をしぼらないと出なくなってしまうので、搾乳はし続けてください。

運営って最適解を導きだすようなもので

三年ほど、グローバル・ボイス日本語というNPOの日本語支部*1の長をつとめている。人々の生の声を伝えることを旨とするメディアで、さまざまな言語で書かれたTwitterやブログを、背景を理解するための説明をつけて紹介している。信頼性の高いまとめサイトみたいなものと考えてもらってもいいかもしれない。

グローバル・ボイス日本語 - The world is talking, are you listening?

これだけ大人数で動いている割に、トラブルがなく*2効率的に質の良いアウトプットを出せている。自画自賛ではあるが、運営を司るわたしの腕がいいということだろう。

組織がある程度大きくなってくると、細かな作業を担当している人には、全体が見えにくくなってくる。多くの作業に触れてほしい、広い視点を持つことで多部署のことを考えた仕事ができるようになるからと言っても、なかなかそうはしてくれない。日本人は完璧主義なのかもしれない。一つの仕事が完璧に終わるまで、ほかの作業に触るべきじゃない、少しでも手を離すのは無責任だと思ってしまうのだ。一つの仕事にかかりきりだと、なおさら視野狭窄になる。

それぞれの部署のバランスがつりあっているなら、それでもたいていいい。しかし、発言力の高いメンバーを特定の部署に集まってしまうこともある。やる仕事の性質上、経験のその部署の問題が他の部署より大きくみえる。寄せられる声の大きさだけで判断すると、リソースの配分を間違える。対処することで、かえって声を挙げないほかの部門のリソースを奪いとり、状況を悪化させてしまうことすらあるのだ。

だから、メンバーの意見を咀嚼しないまま取り入れてはならない。特に、個々の仕事を責任感を持ちきっちり仕上げる能力と、バランス感を持ちどこが一番困っているか距離をおいて眺めることができる能力、これらは全く別のことだということに留意すべきだ。前者の能力に長けた人を、後者にも優れていると勘違いして、彼らの提案をそのまま受け入れたら、あとで面倒なことになりかねない。一度動かしたものをもとに戻すのは大変だ。

適切な判断をしたいなら、自分で現場を回った上でさらに様々な立場のメンバーの意見を聞く。意見を出しづらそうな人たちの考えは、補足する。そうした上で、ここは何を解決すべきなのか、何が問題なのか、考えるのだ。

ここで出すべき解決策は、妥協案ではない。全体をみることで、そもそも問題の根が断てることもある。全体が見えて、全体を司れる立場だからこそ、考えつくこともありできることもある。

他のメンバーの考えに流される「調整型」リーダー、人の思いを聞かず独断専行で動く「強い」リーダー、どちらも危険だ。前者が率いる組織には構造的な矛盾が溜まりやすい。後者はまるっきりリーダーのセンスだよりで、こけると大ゴケである。団体の成長の過程とリーダーの特質がピッタリ合ったときは、はたからみて危うく見えてもうまくいくのだが。

数理計画法をご存知のかたには、次のような比喩を使うとわかりやすいかもしれない。リーダーが下すべき決定とは、グループ全体の最適解だ。

ある程度団体が大きくなれば、自分で作業をするより、ほかの人の作業が快適に進み、うまく互いにかみ合っている状況を作るため働くことが大切になってくる。

もちろん、状況を把握するために自分で作業することは極めて重要だ。しかし、自分が手を動かしてその場をしのいでも、根本的な解決にならない。

まずは、評価関数を決める。そもそも、この団体の目的は何か。何を成し遂げたくて、人が集まっているのか。何を守り抜き、何なら捨てても良いのか。これはリーダーが決めるべき事柄だ。

そして、どういう制約があるのか、調べていく。で、最適解をもとめるのだ。場合によっては、制約のほうを動かしたりなくしたりする。時間が経つと、むかし必要だったこともそうでなくなっていたりするので。(この回収作業がなかなか難しい。)

じみーな作業、なんですよね。問題が起きては、叩いて、問題が起きては、叩く。

みんなが認めている問題をつぶすのは、後押ししてくれて気分的にはラク。芽吹いたばかりの問題も、つぶすのにそんなに手がかかるわけではないので、ラク。でも、問題がかなり膨らんでいるのに、全員が納得するほどの大きさじゃないときは、大変。

わたしは長い間この団体に関わってきているから、問題を放置したときの帰結が見渡せる。でも、ほかの人には、なんで今のやり方を変えるのという反発がくる。いくら言葉を尽くしても、今あるものを切り捨てることを納得してもらえない場合もある。まぁ、それも含めて、すべてわたくしの能力の問題ですがね。もっとスムーズにできる出来た人もいるのでしょう。

まぁ、みなさん、楽しそうにやってくださっているので、よいのです。木を育てているような、ものなのです。直接わたしに感謝してくれなくても、別にいい。

最後に記事のご紹介を。


*1:言語単位なので、「日本支部」ではない。実際、メンバーには海外滞在組も多い。

*2:過去にはいろいろあったし、これからもいろいろあるだろうが、この手の団体としては少ないほうではないだろうか

過食症の薬物治療

薬物治療がない、多くの人にと思われている疾患も、薬物が治癒の助けになることがわかってきている。ただ、認知行動療法が大切な場合は多い。
 

ソースはKaplan & Sadock's の Synopsis of Psychiatry 原著10版の23.2 Bulimia Nervosa and Eating Disorder Not Otherwise Specifiedです。

 
Kaplan & Sadock's Synopsis of Psychiatry: Behavioral Sciences/Clinical Psychiatry, North American Edition

Kaplan & Sadock's Synopsis of Psychiatry: Behavioral Sciences/Clinical Psychiatry, North American Edition

  • 作者: Benjamin J. Sadock,Virginia A. Sadock
  • 出版社/メーカー: Lippincott Williams & Wilkins
  • 発売日: 2007/05/16
  • メディア: ペーパーバック
  • クリック: 6回
  • この商品を含むブログを見る
 
 
日本語版もあるよ。
カプラン臨床精神医学テキストDSM‐IV‐TR診断基準の臨床への展開

カプラン臨床精神医学テキストDSM‐IV‐TR診断基準の臨床への展開

  • 作者: ベンジャミン・J.サドック,バージニア・A.サドック,Virginia Alcott Sadock,Benjamin James Sadock,井上令一,四宮滋子
  • 出版社/メーカー: メディカルサイエンスインターナショナル
  • 発売日: 2004/11
  • メディア: 単行本
  • クリック: 23回
  • この商品を含むブログ (8件) を見る

過食症については、薬物治療が有効だとの結果がはっきり出ているが、拒食症はそこそこ有効レベルであり、患者の体重が極端に減っていることを考えると、薬物療法が危険な結果を招きうるので、薬物療法は注意してほしいとの感触。

## 神経性過食症

# 定義
神経性過食症の患者は
神経性過食症の患者は神経性食欲不振症と似たところがあって、両者とも痩せたいと思っている。しかし、神経性過食症は空腹に耐えられず発作的に異常なほど食べてしまう。
神経性食欲不振症でも、大食しそのあと吐くタイプはいるが、神経性過食症が大きく違うのは、体重が標準的であるということ。

# 薬物治療
過食症については、抗うつ剤が有効とのこと。SSRIもオーケー。中枢のセロトニンレベルが上がるからじゃないかとの仮説があるらしい。リチウムやカルバマゼピンは過食の症状自体にはあまり効かないが双極性障害などを伴う患者には有効とのこと(そりゃそうだろ)抗うつ剤だけでも22%の患者は過食症の症状を治すことができるとの結果がでているが、認知行動療法と薬剤との組み合わせがもっとも優れているとの研究がある。

養子を提案すると、叩かれるのがデフォらしい

児童養護施設の現状に関する調査を読み解く - 医学生の生存戦略施設での児童養育について、児童の精神発達という側面からの考察 - 医学生の生存戦略に述べたような理由で、里親・養子制度がもっと進んでほしいと思っています。なんらかの事情で子どもができない親が、養子や里子を引き受けるケース、諸外国では一般的です。他の国ではできていることが、日本ではできないというのには、固有の事情があるのでしょう。

「地域による里親の割合の違い」を再掲します。

f:id:uncontrollablemind:20131120234558p:plain

新潟県と堺市では大きな開きがあることがわかります。これは、国単位での足かせがあるわけではないことを示しています。地方の文化か、自治体の取り組みや固有の制度か、そのあたりに何かがあるのでしょう。

でもまあ、地方の制度・自治体というのも結局は人、なんですよね。地方自治体って民主主義の学校とも言われるように、住民が関わることで変えていけるもんなので。諸外国との差って、ここ数年の間で開いたものでもないですし、要は住民側の動きの問題なんではないですかねと想像したわけです。

医学の勉強をしてて、不妊の治療や検査をネットで調べていると体験を語るブログにぶち当たるのですが、まず養子・里子のことを書いている方いらっしゃらないんですよね。「夫との間の子どもがほしい!」と繰り返し叫んでいる人なら、養子・里子は眼中にないのはわかるんですが、そうでもないかなあという人でも書いてないんで。なので、そもそも不妊以外のオプションが頭に浮かんでないか、浮かんでたとしても選択してないんじゃないかなあと思ったわけです。

小児の臓器移植に対する患者の働きかけと絡めて考えていたんですが、養子とか里子の方は、医療の枠から切り離される分、タグを組みにくくて、何かしらトラブルにぶち当たった時乗り越えにくいのかなあと思いました。小児の病気の場合は、主治医と二人三脚なので、高い壁がそびえていても、いわれない批判をうけても、諦めず取り組めますし、何より、自分が諦めれば確実に失われる命があります。養子・里子は誰か強いサポートがつくわけじゃなさそうだし、諦めたら自分の夢が消えるけど、誰かの命が失われるわけではありません。

ということをもやもや考えていました。仮説を検証するためには、当事者に聞いてみるのが一番でしょう。しかし、わたし不妊治療に取り組むような年代の女性と、ほとんどつながりないんですよ。また、わたしが普段話す人たちが、日本人の中では隅っこにいる方の人たちというのもあり、あまり一般的な答えは得られそうにもないんです。

で、そういうところに、すでに不妊治療が終了して、子どもを授かった人が、当時のことを語ってある様子を見たわけです。これは質問するのにいいチャンスかなと思いました。わたしとて、不妊治療の途中の人に養子はどうとは聞きにくかったんです。あなたはもう妊娠できないよと言っているように聞こえてしまうと思ったんで。ただ、すでに子どもさんがいらっしゃるので、そういう印象を受けることもないでしょう。

すでに元エントリが消されているため、確認できていないのですが、「不妊治療で子どもができるか、子どもがいない未来のどちらかしかない」ということをおっしゃってたので、そこまで選択肢を絞るのはなぜだろう、とそう思ったわけです。で、「不妊治療で子どもを授かるのと、子どもがいないというその間に、養子をもらうということはありますか?」と聞きました。(元エントリを消されたということで、検索しにくくため、言葉遣いはあえて不正確にしています。)本当はもうちょっとなぜこういう質問をするのか補足するつもりだったのですが、iPadSafariとブログのコメント欄の相性が悪いのか、なんか途中で閉じてしまい、もういいやと思って寝てしまいました。(きちんと補足できていたら、もう少し穏やかな応酬ができていたような気がします。iPadSafariとブックマークやコメントはあまり相性がよくないらしく、思った通りに動作しないので、何か対策を考えなければなりません。)

で、試験勉強もあったし、ネットをチェックしないまま時が過ぎていって、久しぶりにみたら、自分のコメントがなんか燃え上がっていたらしいと、そういうわけです。でも元エントリ消されてるし、ブックマークからしかどういう反応をされたのかわからないんですけどね。できる限り、単なる質問であることを明確にしたかったし、そこそこ柔らかな言い方はしたと思うんですけど、それでも何かしらブログ主の傷に触れてしまったんでしょうね。

ブクマの反応とかみても、日本では「不妊治療のオプションとして養子や里子を検討すること」について強い抵抗を感じる人が多いことがわかりました。相談を受けたときに、アドバイスとして持ち出したら、絶縁されかねないし、マスコミとかで取り上げたとしたら、クレームの嵐でしょう。生みの親に育て続けてもらえなくなった子どもにとっては、これはすごく難しい状態だと思います。

このあいだ、FtoM(女性から男性へ性転換)とMtoF(男性から女性へ性転換)のカップルが、「いじめられる可能性があるから」と養子をもらえない、と訴えているのをみました。やっと養子関連の話がテレビに登場した、と思いましたが、いま考えればあれは不妊と関係がないからテレビに出せたのですね。

いま不妊で困っているわけでもないわたしがそういうことを知ったとして、何が嬉しいのか?興味本位で聞いてるわけじゃないですよ。まずは、医師になった暁にどういう分野を選択し、どのように社会と関わっていくか、考える材料になります。今現在だって、いろいろできることがあります。ネット上に何かしら書くだけでも、読んでいる人の心は動くでしょう。児童虐待に関わっている方に、意見を伝えられるパスも持っています。何かよい切り口が見つかったなら、さらにデータを収集して論文にすることもできます。論文になれば、客観的なデータになり、多くの人に役立ててもらうことができます。

ああ、もう、ここで怒ってもつうじないから淡々とかいてるんですけどね。なんでこんな当然のことをくどくど書かないと、変な曲解されるんでしょうね。腹立ちますよ、養子って選択肢を、口に出しただけで何も知らないバカのように扱われること。偽善だと決めつけられること。触らぬ神には祟りなし、黙れと言われること。

養子って、そんなに考えられないんですか?差別しているのは誰ですか。

関連エントリ

児童養護施設の現状に関する調査を読み解く

関連エントリ:施設での児童養育について、児童の精神発達という側面からの考察 - 医学生の生存戦略

社会的養護 |厚生労働省の「社会的養護の現状について」を参考にしました。わたしが特に重視しているポイントのみ述べます。興味がある方は直接お読みください。

里親と施設の数の推移(p2)

ともに収容の必要とともに伸びており、特に里親件数は2倍近く伸びています。しかし、施設に入っている児童と比べて圧倒的に少ないと言わざるを得ません。

f:id:uncontrollablemind:20131117213150p:plain

施設の規模(p7)

大舎の定義が「児童の人数が20人以上の施設」ですが、大舎はH20年度の7割からH24年度の5割と、着実に減ってはおります。しかし、まだまだ不十分です。収容児童の人数が40〜50人の施設がもっとも多いようですが、これは家庭ではなくクラスですね。

f:id:uncontrollablemind:20131117215655p:plain

児童の措置理由(p3)

児童の数の増加は、主に被虐待児の件数増加によるものであることが読み取れます。児童全体をみても、3割程度と非常に大きくなっているようです。

f:id:uncontrollablemind:20131117212949p:plain

虐待を受けた児童の増加(p5)

児童相談書への虐待の相談の件数はH11年度と比べH23年度では5倍程度に増えています*1。虐待にはさまざまなケースがあり、親子が共に暮らしながら関係の正常化をはかっていくことがベストのケースもありますが、治療の課程で一度親子を分離しなければならないケースもあります。また、子どもを親の元に戻すことは考えられないようなケースもあります。後者の二例では、一時的あるいは公共的に施設や里親や養子のシステムを利用することになります。

また、児童養護施設に入所している子どものうちで虐待を受けている児童の割合も非常に多いことがわかります。里親へ引き取られる児童の割合が少ないのは、虐待を受けた児童は里親での引き取りが難しい状態になっていることが多いからでないかと思われます。

f:id:uncontrollablemind:20131117205516p:plain

障害のある児童の割合 (p6)

全体的に年々増えており、特に平成10年ー平成15年で激増しているように見えますが、年々障害の基準も細やかになっているようであり、実際に増えているのか、よくわからないという感じもあります。それでも、一般児童より遥かに高い割合で障害のある児童が含まれているのは確かで、障害があるせいでこの子たちは施設に入ることになったのだなぁと思います。

f:id:uncontrollablemind:20131117211033p:plain

里親の割合の国際比較(p23)

欧米主要国+韓国と比較した結果では、ほとんどの国では、里親の割合は5割を超えています。隣国の韓国ですら43.6%と4割を超えているのに対して、日本は10%強と、他国とは歴然とした差があることがわかります。

f:id:uncontrollablemind:20131117211606p:plain

地域による里親の割合の違い(p24)

里親の割合には、最低の堺市が4.2%で最高の新潟市が39.0%と、10倍近い差があります。おそらくは自治体の取り組みや、里親という制度に対する受け止め方による地域差があるのかと。

このグラフをみていると、里親の割合upには、国政レベルで何か障害があるというよりは、地域自治体レベルでいろいろあるのだろうと 地方自治体レベルの話であれば、周囲からの働きかけでも比較的動きやすいのでは?と思います。

f:id:uncontrollablemind:20131117210520p:plain

個人的なまとめ

欧米諸国やお隣の韓国と比べて、ひどく水をあけられている状態にあります*2。大きい施設から小さい施設へ、小さい施設から里親への動きへの動きは徐々に進んではいますが、その一方で被虐待児や障害児の割合が大幅に増えていることを思うと、一人あたりの児童に必要なケアは設備の充実の速度を上回る速度で進んでいるようです。里親の割合には、自治体により大きな差があります。県単位や市単位で、高い里親比率を達成している自治体があるのをみると、草の根の取り組みでも里親の割合を上げていくことは可能なのではと感じます。

*1:この手のものは正確な実態調査が困難ですが、虐待自体が増加しているというより、虐待に対する世間の認知度が上がった結果でしょう

*2:日本はときどきびっくりするほど人権を無視している国だと思うことがあります