運営って最適解を導きだすようなもので

三年ほど、グローバル・ボイス日本語というNPOの日本語支部*1の長をつとめている。人々の生の声を伝えることを旨とするメディアで、さまざまな言語で書かれたTwitterやブログを、背景を理解するための説明をつけて紹介している。信頼性の高いまとめサイトみたいなものと考えてもらってもいいかもしれない。

グローバル・ボイス日本語 - The world is talking, are you listening?

これだけ大人数で動いている割に、トラブルがなく*2効率的に質の良いアウトプットを出せている。自画自賛ではあるが、運営を司るわたしの腕がいいということだろう。

組織がある程度大きくなってくると、細かな作業を担当している人には、全体が見えにくくなってくる。多くの作業に触れてほしい、広い視点を持つことで多部署のことを考えた仕事ができるようになるからと言っても、なかなかそうはしてくれない。日本人は完璧主義なのかもしれない。一つの仕事が完璧に終わるまで、ほかの作業に触るべきじゃない、少しでも手を離すのは無責任だと思ってしまうのだ。一つの仕事にかかりきりだと、なおさら視野狭窄になる。

それぞれの部署のバランスがつりあっているなら、それでもたいていいい。しかし、発言力の高いメンバーを特定の部署に集まってしまうこともある。やる仕事の性質上、経験のその部署の問題が他の部署より大きくみえる。寄せられる声の大きさだけで判断すると、リソースの配分を間違える。対処することで、かえって声を挙げないほかの部門のリソースを奪いとり、状況を悪化させてしまうことすらあるのだ。

だから、メンバーの意見を咀嚼しないまま取り入れてはならない。特に、個々の仕事を責任感を持ちきっちり仕上げる能力と、バランス感を持ちどこが一番困っているか距離をおいて眺めることができる能力、これらは全く別のことだということに留意すべきだ。前者の能力に長けた人を、後者にも優れていると勘違いして、彼らの提案をそのまま受け入れたら、あとで面倒なことになりかねない。一度動かしたものをもとに戻すのは大変だ。

適切な判断をしたいなら、自分で現場を回った上でさらに様々な立場のメンバーの意見を聞く。意見を出しづらそうな人たちの考えは、補足する。そうした上で、ここは何を解決すべきなのか、何が問題なのか、考えるのだ。

ここで出すべき解決策は、妥協案ではない。全体をみることで、そもそも問題の根が断てることもある。全体が見えて、全体を司れる立場だからこそ、考えつくこともありできることもある。

他のメンバーの考えに流される「調整型」リーダー、人の思いを聞かず独断専行で動く「強い」リーダー、どちらも危険だ。前者が率いる組織には構造的な矛盾が溜まりやすい。後者はまるっきりリーダーのセンスだよりで、こけると大ゴケである。団体の成長の過程とリーダーの特質がピッタリ合ったときは、はたからみて危うく見えてもうまくいくのだが。

数理計画法をご存知のかたには、次のような比喩を使うとわかりやすいかもしれない。リーダーが下すべき決定とは、グループ全体の最適解だ。

ある程度団体が大きくなれば、自分で作業をするより、ほかの人の作業が快適に進み、うまく互いにかみ合っている状況を作るため働くことが大切になってくる。

もちろん、状況を把握するために自分で作業することは極めて重要だ。しかし、自分が手を動かしてその場をしのいでも、根本的な解決にならない。

まずは、評価関数を決める。そもそも、この団体の目的は何か。何を成し遂げたくて、人が集まっているのか。何を守り抜き、何なら捨てても良いのか。これはリーダーが決めるべき事柄だ。

そして、どういう制約があるのか、調べていく。で、最適解をもとめるのだ。場合によっては、制約のほうを動かしたりなくしたりする。時間が経つと、むかし必要だったこともそうでなくなっていたりするので。(この回収作業がなかなか難しい。)

じみーな作業、なんですよね。問題が起きては、叩いて、問題が起きては、叩く。

みんなが認めている問題をつぶすのは、後押ししてくれて気分的にはラク。芽吹いたばかりの問題も、つぶすのにそんなに手がかかるわけではないので、ラク。でも、問題がかなり膨らんでいるのに、全員が納得するほどの大きさじゃないときは、大変。

わたしは長い間この団体に関わってきているから、問題を放置したときの帰結が見渡せる。でも、ほかの人には、なんで今のやり方を変えるのという反発がくる。いくら言葉を尽くしても、今あるものを切り捨てることを納得してもらえない場合もある。まぁ、それも含めて、すべてわたくしの能力の問題ですがね。もっとスムーズにできる出来た人もいるのでしょう。

まぁ、みなさん、楽しそうにやってくださっているので、よいのです。木を育てているような、ものなのです。直接わたしに感謝してくれなくても、別にいい。

最後に記事のご紹介を。


*1:言語単位なので、「日本支部」ではない。実際、メンバーには海外滞在組も多い。

*2:過去にはいろいろあったし、これからもいろいろあるだろうが、この手の団体としては少ないほうではないだろうか