「思いやり行動」について

大学のレポート、せっかくなのでアップ。

京都大文学研究科と英スターリング大学研究グループの共同研究で、フサオマキザルに二つの異なる人間の寸劇を見せ、反応を観察したそうだ。一方の寸劇は、助けを求めた人をもう一人が助けるというもの、もう一つは助けを求めたものも拒否されるというものだ。そのあとに、助けを求めた人と求められた人が同時に食べ物を差出し、サルがどちらの人から餌をもらうかということを調べたそうである。すると、協力を拒否した人は選択されにくい傾向が見られたそうだ。フサオマキザルは広鼻下目に属す新世界ザルであるため、自身が思いやり行動を示すであろうことは他の研究からも推測できるが、この実験は他の個体の評価をしていることが明らかになったという点で新しいということだ。

フサオマキザルは遺伝子的に近い個体で形成されたグループで長期生活するため、思いやり行動をすることで自分にもかえってくる上、メンバーに思いやりを施すことで自分の遺伝子が子孫に受け継がれる可能性が上がるので、思いやり行動を伸ばすメリットは大きいのだと思う。しかし、思いやりを示す個体がよりコミュニティのメンバーとして受け入れられやすいということはわかったものの、これが先天的に思いやり行動を行う傾向の高い個体の生存確率を上げているのか、後天的な思いやり行動の学習を助けているのかということはわからなかった。人間社会からの類推やフサオマキザルの全般的な知能の高さからすると、思いやり行動が後天的に育成されている割合は大きいのではないかと考えるものの、確認には実験が必要だろうと思う。

また、米アトランタのエモリー大学霊長研究所のメスのオマキザルを用いた実験で、自分だけが餌をもらうよりも、家族や仲間と一緒に餌をもらう方を好むという傾向があることがわかったそうだ。しかし、知らない相手と組む場合、自分だけが餌をもらえる選択肢を選ぶことが多くなる。

思いやり行動が、一緒にいることの多い相手からお返ししてもらったり、血縁関係にいる相手の遺伝子を残そうとして行われるものだとすると、この結果は納得できるものだと考えられる。人間の場合も、家族や深い関わりを持つ友人の方が、赤の他人よりも多くの場合思いやることができるわけで、通じるものがある。また、多くの文化で、自分と外見的特徴が大きく異なる人を排斥し自分と似た人たちだけでまとまる傾向があるのも、自分の遺伝子が引き継がれる可能性を高くする行動かと思う。

より知的程度の低い動物に対して新世界サルは思いやり行動をとることができるし、ヒトはさらに赤の他人やまだ会ったことのない人に対しても思いやり行動をとることができるので、より道徳的になっているように見える。しかし、これはコミュニティの拡大に伴い協調的行動をとるメリットがデメリットを上回る範囲が広がっただけで、最終的には利己的な行動なのかもしれないと考えた。