児童養護施設の現状に関する調査を読み解く

関連エントリ:施設での児童養育について、児童の精神発達という側面からの考察 - 医学生の生存戦略

社会的養護 |厚生労働省の「社会的養護の現状について」を参考にしました。わたしが特に重視しているポイントのみ述べます。興味がある方は直接お読みください。

里親と施設の数の推移(p2)

ともに収容の必要とともに伸びており、特に里親件数は2倍近く伸びています。しかし、施設に入っている児童と比べて圧倒的に少ないと言わざるを得ません。

f:id:uncontrollablemind:20131117213150p:plain

施設の規模(p7)

大舎の定義が「児童の人数が20人以上の施設」ですが、大舎はH20年度の7割からH24年度の5割と、着実に減ってはおります。しかし、まだまだ不十分です。収容児童の人数が40〜50人の施設がもっとも多いようですが、これは家庭ではなくクラスですね。

f:id:uncontrollablemind:20131117215655p:plain

児童の措置理由(p3)

児童の数の増加は、主に被虐待児の件数増加によるものであることが読み取れます。児童全体をみても、3割程度と非常に大きくなっているようです。

f:id:uncontrollablemind:20131117212949p:plain

虐待を受けた児童の増加(p5)

児童相談書への虐待の相談の件数はH11年度と比べH23年度では5倍程度に増えています*1。虐待にはさまざまなケースがあり、親子が共に暮らしながら関係の正常化をはかっていくことがベストのケースもありますが、治療の課程で一度親子を分離しなければならないケースもあります。また、子どもを親の元に戻すことは考えられないようなケースもあります。後者の二例では、一時的あるいは公共的に施設や里親や養子のシステムを利用することになります。

また、児童養護施設に入所している子どものうちで虐待を受けている児童の割合も非常に多いことがわかります。里親へ引き取られる児童の割合が少ないのは、虐待を受けた児童は里親での引き取りが難しい状態になっていることが多いからでないかと思われます。

f:id:uncontrollablemind:20131117205516p:plain

障害のある児童の割合 (p6)

全体的に年々増えており、特に平成10年ー平成15年で激増しているように見えますが、年々障害の基準も細やかになっているようであり、実際に増えているのか、よくわからないという感じもあります。それでも、一般児童より遥かに高い割合で障害のある児童が含まれているのは確かで、障害があるせいでこの子たちは施設に入ることになったのだなぁと思います。

f:id:uncontrollablemind:20131117211033p:plain

里親の割合の国際比較(p23)

欧米主要国+韓国と比較した結果では、ほとんどの国では、里親の割合は5割を超えています。隣国の韓国ですら43.6%と4割を超えているのに対して、日本は10%強と、他国とは歴然とした差があることがわかります。

f:id:uncontrollablemind:20131117211606p:plain

地域による里親の割合の違い(p24)

里親の割合には、最低の堺市が4.2%で最高の新潟市が39.0%と、10倍近い差があります。おそらくは自治体の取り組みや、里親という制度に対する受け止め方による地域差があるのかと。

このグラフをみていると、里親の割合upには、国政レベルで何か障害があるというよりは、地域自治体レベルでいろいろあるのだろうと 地方自治体レベルの話であれば、周囲からの働きかけでも比較的動きやすいのでは?と思います。

f:id:uncontrollablemind:20131117210520p:plain

個人的なまとめ

欧米諸国やお隣の韓国と比べて、ひどく水をあけられている状態にあります*2。大きい施設から小さい施設へ、小さい施設から里親への動きへの動きは徐々に進んではいますが、その一方で被虐待児や障害児の割合が大幅に増えていることを思うと、一人あたりの児童に必要なケアは設備の充実の速度を上回る速度で進んでいるようです。里親の割合には、自治体により大きな差があります。県単位や市単位で、高い里親比率を達成している自治体があるのをみると、草の根の取り組みでも里親の割合を上げていくことは可能なのではと感じます。

*1:この手のものは正確な実態調査が困難ですが、虐待自体が増加しているというより、虐待に対する世間の認知度が上がった結果でしょう

*2:日本はときどきびっくりするほど人権を無視している国だと思うことがあります