とても傷ついたとき

不妊治療の経験者に養子縁組の可能性を示唆したらひどく非難された件。

わたし自身が非難されている、というよりも、つらいんだと悲鳴をあげているように見えた。

いままでみた風景のうちで印象が似ているのは、子どもの障害の告知である。どう告知したところで、告知の瞬間、医師は親に憎まれる。障害を認めたくないがゆえに、子どもにとって必要な治療を拒む親や、最良の治療を求めてかえって親子ともに疲れはてるケースも多い。我が子に障害を背負わせた負い目や、現在の医学の限界に対する苛立ちを、親は医師に転嫁する。親の心を受け止め、解きほぐし、光の差す方向に目をむけさせるのも、医師の役目である。*1

今回の件も、おそらくは痛みが強いあまり発した言葉だろうと思う。だから、わたし自身が無神経だと責められるのには腹はたたない*2。普段のこの方を知らないので判断しづらいけれど、妊娠・出産の時期は女性の人生で特にうつ病に罹患しやすい時期でもあり、この方もうつ病になっている可能性もあると思う*3

不妊治療には、いろいろと辛い要素があること、ある程度はわたしも知っている。検査が多いこと*4、ホルモン治療で精神的に不安定になること*5、着床しなかったり流産してしまったりで出産に至らず、高度治療を用いた場合は金銭的負担も大きいこと。パートナーとの関係性によっては、苦しみも増すだろうし、せっかくの排卵日を生かせなくて苛立つこともあるだろう。

この方が荒れることも、仕方がないのだと思う。ほかの人に向けたカサカサした言葉は、自分にも返ってこないだろうか?周りの人が腫れ物にさわるような扱いをしたところで、この方は癒されるんだろうか?

精神的問題を抱えた子どもを治療する方法として、さまざまなおもちゃのある空間でセラピストと一緒に遊ぶ、プレイセラピーというものがある。言語能力の低い子どもにとっては遊ぶことがしゃべることに相当する。遊びを通して自分の問題を掘り下げ、フラストレーションを解決する。

プレイセラピーには守るべきルールがあり、それが単なる大人との遊びとは違う所以だ。ルールの一つに、セラピストは子どもがおもちゃを壊す、セラピストに過度な暴力を加えるなどしようとしたら、押しとどめなければならないというのがある。子どもに破壊的な行動をさせると、子どもが罪悪感をもってしまうからだ。

腫れ物を触るような扱いをし、過剰な反応をしたときもただ同情し、その原因をもたらした人間を責める、そういう扱いが果たしてご本人にとってよいのだろうか。世界を実際よりも悪意に満ちていると感じる、その受け取り方をより強化してしまうことにならないだろうか。

痛みは痛みとして共感し、でも受け止め方にゆがみがあることを指摘したほうが、いいとわたしは思うんだけどね。

*1:しかし、現実には医師の圧倒的な人手不足で、患者に心を配る余裕がないことが多い。また医師側の素質も大きく、口下手な人も、どうしても気が回らない人もいる。一般人と同じだ。もともと、病気や障害というのはきわめてプライベートな事柄であり、感情的な衝突が起きやすい。医師の言葉は悪い方に深読みせず、知りたいこと、してもらいたいことがあったら自分からいう、これが医師とつきあう上でストレスの少ない方法だと思う。

*2:むしろ当惑した。

*3:その場合は、周囲のサポートだけでは回復しづらいと思う。精神科を受診し投薬治療を受けるべきである。

*4:わたしもある持病を持っているので検査は不妊治療の人と変わらないぐらいの数は受けている。わたしは検査大好き人間ではあるが、自分について何らかの診断を下されるというのは、結構ショッキングなものであると思う。

*5:わたし自身PMSがかなり強い人間なので、辛いのではとは思う