せん妄の診断と治療

せん妄はわからない、という人によく出会う。なぜそういう感想になるかというと、一つは一般病棟でよく出会う精神疾患ということだろう。うつ病統合失調症なら精神科にいくが、せん妄は精神病の既往のない人が手術後や薬物治療で発症したりする。なじみがないと、精神的症状は異様に感じられたり、過度に心因的素因を求められたりするようだ。
ただ、自分の中で腑に落ちようと落ちまいと、せん妄の症状・リスクファクター・治療法はしっかり抑えておくべきだと思う。基本的に高齢であること自体が大きなリスクファクターで、さらに手術・薬物・感染症・痛みなど病院でありがちな刺激の多くがせん妄を引き起こすので、高齢者が入院してきたらせん妄を起こす可能性はあるとしてかかる必要がある。統計によると、入院患者の14%〜56%がせん妄を起こすということで、とても多い。
せん妄患者の脳波をとると、全体に徐波化している。これは脳の活動が抑制されていることを表しているそうだ。せん妄患者の脳では酸素代謝が抑制されているのではという説もある。また、コリン性ニューロンの活動が抑制され、ドーパミン作動性ニューロンの活動が活発になっているらしい。こういう情報が与えられれば、せん妄の症状が統合失調症と似た印象を与えるのも納得できるのではないか。

せん妄というと、患者がえらく興奮して暴れ回っている様子が思い浮かぶかもしれない。実はせん妄には活動性のせん妄と非活動性のせん妄の二種類があって、このイメージに当てはまるのは活動性のせん妄のほうである。非活動性の方は興奮状態にならないため発見されづらい。予後は、発見が遅く、誤嚥・褥瘡・肺塞栓が起きやすいため非活動性のほうが悪い。
症状は見当識を失うという点で認知症とよくにているが、認知症はゆっくり進行するのに比べ、発症は急激である点が鑑別で重要である。また、認知症に比べて見当識を失う程度も著しい。

もし、入院した時点でしっかりしていた患者さんが急におかしくなったということならば、認知症とは考えにくい。しかし、病院にきた時点でせん妄になっているケースや、認知症とせん妄が重なったケースでは、症状から判別するのは難しくなる。
検査としては、The confusion assessment method が感度94%・特異度90%ととても性能がよい。また、せん妄時は数唱課題が認知症と比べてもぜんぜんできなくなるから、これで確かめることができる。もちろん、脳波を取ることができる環境にあれば、全体的な徐波の所見で確定診断が取れる。

せん妄に対しては、薬物治療は極力避けるべき*1で、リラックスできる音楽を流す・ノンカフェインの暖かい飲み物を飲んでもらう・暖かい背中をさするなどがいいらしい。
こうして調べてみると、いままで持っていた印象とはだいぶ違う。前は、乱暴にいえば、「騒ぐけど一過性だからだいじょーぶ、気になるなら薬で抑えてしまえ」という印象だったけど、患者さんの予後を考えて対処すべき病気だと認識を新たにした。どうしても、第三者からみて目立つ・困る症状を重要視して、それが収まればいーやとなりがちだけれども、それでよしとしないのは大切だと感じる。

参考リンク:

脳波所見をどう読むか―92症例の臨床現場から

脳波所見をどう読むか―92症例の臨床現場から

*1:国家試験とかWikipediaには抗精神病薬 飲ませろとか書いてあったが、避けたほうが良さそう。