ピルと女性の暮らし方の変遷

婦人科の授業をうけていた。

子宮内膜症や子宮筋腫は昔なかった。子宮体がんも卵巣がんも増加している。これらはすべて、初経の低年齢化と妊娠・出産の数の低下によるという。江戸時代の初潮は平均15歳で、5人くらい子供をうみ、50歳には閉経する。対して、現代女性は12歳で初潮を迎え、1人か2人程度しか産まず、閉経は同じ歳ぐらい。なので、圧倒的に現代女性のほうが排卵回数も、月経回数も多く、出産のように子宮内膜の状態がいっきに改善するチャンスも少ない。

実は、このあたりの問題を低容量ピルが一手に解決することができる。低容量ピルを飲めば排卵回数も減らせるし、子宮内膜の増殖も抑えられるので子宮体がんも減り、子宮内膜症も軽減する。子宮筋腫の進行も抑えることができる、というか若いころから飲んでいれば子宮筋腫にはなりにくい。その上、月経困難症や月経前症候群まで軽減するし、無月経や不規則な月経の場合にピルを使って子宮内膜の状態を保つこともできるので、低容量ピルは妊娠を考える人にも役に立つ薬でもある。

いくら「自然がいい」といっても、初潮を遅くするため子どものとき食べ物を我慢するのは難しいだろうし、5人産めばかなり子沢山のレベルだろう。生活自体が「自然」から遠く離れてしまったならば、低容量ピルという人工物で「自然」に近づけてやるしかない。

子宮頸がんは低容量ピルではリスクを低下できない(HPVウイルスの感染によるので、ピルの避妊効果でコンドームを使わなくなることで、むしろ微増する)。しかしこれだってリスクを低下させる手段がある。性交渉の前の10代前半ぐらいでワクチンを接種すれば、完全とはいかないまでも、メジャーな種類のHPVウイルスについては感染を予防することができる。

しかし、日本で低容量ピルの認可が下りたのは他の先進国よりもずっと後であり、HPVワクチンも認可が下りたのはごく最近のことである。低容量ピルについては特に不可解な経緯がある。諸外国では低容量ピルは子宮内膜症などの治療用として、ずっと前から使われていたのに、日本ではより副作用の強い高容量のホルモン剤を使うことになっていて、これが患者さんをとても苦しめてきた。こういう経緯には、厚生省の腰の重さを超えた何かを感じざるを得ない。

いまも、婦人科医でさえ(だからこそ?)低容量ピルに偏見をもっている人は多く、事前調査抜きで処方してもらいにいくととんでもない差別的なことを言われかねない。HPVワクチンも、暇なかたがたが妊娠できなくなるだの効果がないだの日々アンチキャンペーンを張っている。

結局、予防できる癌、軽減できる症状で、多くの人が苦しんでいる、ということだ。日本はそういう国なんだ、と教授も言っていた。