風立ちぬとタバコ

映画「風立ちぬ」でのタバコの扱いについて(要望) 日本禁煙学会について書いた。ネタばれあり。

当時の日本人男性の多くがタバコを吸っていた様子を描くのと、タバコをストーリー上重要なアイテムと位置づけたり、タバコを美化するのは違う。風立ちぬでは、タバコは節目節目に登場し、心の動きを表し、人と人との仲を取り持つのに使われていた。それに、タバコを吸う堀越二郎は、タバコが嫌いな人間の目にも美しくセクシャルに映るように描かれていた(参考:「風立ちぬ」のせいでこれからサバを食べる度にときめいてしまう気がする - インターネットもぐもぐ)。アニメは映画よりも現実の汚い部分を捨象し思い通りに描く力が強い。「風立ちぬ」におけるタバコは、歴史に忠実な描写の範囲をはるかに超え、タバコを人間生活に欠かせない美しいものとして書いている。

タバコ業界は、タバコのイメージをコントロールすることで、喫煙人口の増大を図ってきた。広告手法の研究においても、タバコCMはよく対象にされる。80年度のタバコCMを参考に貼り付けておく*1

生活必需品ではなく、特にメリットもないので、イメージ戦略をがんばるしかない*2。映画やマンガは、CMと同じようなタバコの描き方をすることで、タバコ業界の後押しをしてきた。キャラクターが魅力的で視聴時間が長い分、かえってCMよりも効果的で、タバコ利権ウハウハかもしれない。ジブリ映画には子どもを連れていく人が多い*3ので、一層まずい。

しかし、だからといって、風立ちぬからタバコを抜いてもいいのか、というと、難しい。抜けば確実に映画の価値を損なうことになるだろう。特に、結核を病み病床にいる菜穂子と手をつなぎながらタバコを吸うあのシーン、あれは両者の刹那的欲望至上主義的な生き方を象徴的にあらわしていて、実にうらやましいというか*4おいおいというシーンなのだが、あれをタバコ以外でどう表現すればいいのかよくわからない。

わたしだったら、テロップでタバコは健康に悪い旨表示するだろうか。どうせ、風立ちぬにはテロップが必要だ。「風立ちぬ」は堀越二郎の設計者人生を忠実に描いたものではなく、堀辰雄の「風立ちぬ」と「菜穂子」も混ぜ込んだ宮崎駿のオリジナルだが、映画には堀越二郎という実在人物の名前が使われている。事前情報なしだと、実際の堀越二郎も、結核の婚約者を東京に呼び戻して同じ空間でタバコを吸いまくり命を縮めた人間と誤解されかねない。

*1:1:32からの「静かな力を感じます」って何だよ!まるっきりヤクじゃないすか!

*2:タバコにはイメージ以外に何も宣伝できることはないからだ。タバコを吸うとイライラが解消された感覚になるのは、ドラック依存者の禁断症状がドラックを吸うことで解消されるのと同じであり、けしてタバコがストレスを軽くしているわけではない。

*3:風立ちぬは子ども向けではないんだが

*4:リア充燃え尽きろ的な